約２０年前から歯科訪問診療をしています。持ち運びのできる、歯を削ったり歯石を取る機械は今より大きく重かったです。今ではかなり小さく、軽くなりました。クリニックの治療と同じことがなんでもできるわけではありませんが、機械で歯石も取れますし根の治療や簡単な抜歯、かぶせものを作ったり、入れ歯作り​​などできることは多いです。​​

　訪問診療の患者さんにとって、歯科的に正しい治療が必ずしも適用できるとは限りません。意思疎通が難しく、さらには口を開けられない状態の方もいれば、おしゃべり好きで自分で口腔ケアができる方もいます。同じ治療や口腔ケアの方法がすべての患者さんに当てはまるわけではありません。それぞれの状態に合わせた対応が必要です。

　たとえば、右手が麻痺していて入れ歯を自分でうまく洗えない患者さんがいました。この方は、残った歯の歯磨きは左手で上手に行えていますが、入れ歯ブラシを使うと洗いづらい状態でした。通常、入れ歯を片手で持ち、もう片方でブラシを持って洗いますが、この患者さんの場合、それができません。そこで、洗面台の流しに吸盤付きのブラシを設置したところ、左手で持った入れ歯をうごかし（固定されているブラシに入れ歯を動かして洗います）うまく洗えるようになり、もとても喜ばれていました。単に「入れ歯を洗ってください」と伝えるだけでなく、その方の状態に応じて「これならできるかも」と工夫することがむずかしくも面白いところです。

​　歯科訪問診療が必要な患者さんの状態は一人ひとり異なります。病気や服用中のお薬、ご家族の状況、そしてもちろんお口の状態もさまざまです。それぞれの状況に合わせた歯科訪問診療を提供できるよう心がけています。

　

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